hippoTV動画第七回放送インタビュー
【 和紙職人 岩野市兵衛 <いわのいちべえ>】
━━━岩野さんと和紙との歴史を教えてください?
- 私の父が大東亜戦争に行って、うちの手伝いしろっていうんで手伝いさせられたのがこの紙に入らざるをえなかった発端なんです。
小学生や中学生ながら、半人前の、紙は漉けなかったけど他の事はできたんです。
紙を漉いたのは、漉き始めたのは28かな、28か29歳の頃ですね。
ですから、50年くらいは紙すきをやっています。
━━━50年間、ひたすらに紙漉きを続け、当代一の職人となった、岩野さん。
胸に宿る、和紙作りの「心」とは?
- 毎日同じ事をやっているんですから、無心というのもおかしいけど、あまり考え事をするのは良くないと思う。
どんな紙を漉く時でも、その方へちょっと気がいくと、今漉いている紙がまずくなります。
ですからやっぱり、済むまでは他の事は考えない事ですね。
ですから、無心に近いといえば近いですね。
━━━無心で和紙を作り、現代の名匠となった岩野さんですが?
- 皆さんは名人だ名人だって言ってくれる人がたまにありますけど、名人だと思うなら、
私が死んでからその言葉を出してくれ、私は名人ではない、職人だっていつもそう言っているんです。
紙すきほど難しいものはないと思う。
━━━岩野さんの和紙を求める者が数多い中、世界と岩野はどう向き合っているのか?
- ルーヴル美術館 フランスの大きな美術館がこの和紙が一番良いと言われて、世界中の紙を集めてテストした結果、この紙に留まった。
カナダにアレックスさんという木版画の関係の方がいらして、その人がカナダ政府から素晴らしい木版画を摺ってくれと依頼されたんですけど、この作品は市兵衛の紙でなければこれは納まらないと言うんで、カナダから私のところへ国際電話がかかってきて100枚作ってくれって言われたんで、100枚作って収めたんですけど私の紙を知っている人がカナダにもいらっしゃるんです。ですから、こちらから宣伝しなくても向こうから買ってくださる方があるんです。
大量生産できないんだから宣伝しない方がいいのです。
━━━和紙作りは、煮熟、ちり取り、打解、 紙すき、圧搾、乾燥、という、
大きく、6つの工程に分けられるそうですが?
- 長い収蔵庫での間に、少しでも手を抜くなとは言ってました。ですから手を抜いたりはしませんし、
さらに、もっと厚い紙作りをどうするといいか等色々難しいんですが、そういう難しさにも耐えて紙を作っているつもりでおります。
━━━『紙漉き』。紙の厚さを出すため すくう大胆さと滑らかな仕上がりのため手先の繊細さが必要ですが、和紙づくりの中で、最も大事な工程に入るようですが?
- 私の母親が言っていたけど、紙漉きなんていう難しいものは死ぬまで1年生だと言ってましたね。
ですから、これで良いっていうのは私はないと思います。
━━━岩野さんの技について?
- 楮とういうのは元々繊維が長いものですから、これくらい引っ張ってもちぎれないぐらいですから、木版画で何回摺っても耐えてくれる現代の版画は何十回どころじゃない何百回以上も摺る木版画が出てくる。
それを一緒の調子で絵の具が吸ってくる感じ(和紙)でなければ困る。
それが私が与えられた努めっていうか。ですからこだわって漉いている
このこだわりが良いか悪いかは知らないけど、今のところみなさんから喜ばれている。
━━━ルーヴル美術館においても、絵の修復に重宝される、世界最高品質の紙。
岩野さんにとって、日本の伝統文化、和紙とは?
- 和紙といってもいろんな種類がある日本で漉かれれば「和紙」でしょうし、機械で漉かれても「機械漉き和紙」って言いますし、和紙は本当に種類が多いです。
ですけど、国産の楮で そして日本人がこの恵まれた水で漉いて、誠心誠意込めたこの紙ですから、この紙こそ絶対残ると思いますし、絶対残してほしい紙の1枚だと思います。
これが本当の和紙だと思います。
和紙職人 岩野市兵衛 (いわのいちべえ)
Ichibee Iwano
奈良時代から続く日本有数の和紙の産地、福井で
現在もなお、最高級の和紙を漉き続ける、人間国宝、岩野市兵衛。
奈良時代から「紙の里」として知られるこの町は和紙づくりに適した水質の元、
高品質の和紙が、今日でも生産されている。
数いる和紙職人の中でも、最高峰の腕前を持つと言われているのが9代目、岩野市兵衛。
平成12年、国の重要無形文化財保持者に指定された。
50年間、ひたすらに紙を漉いてきた、日本の名匠。
岩野の作る紙は、たった一種類。それは、「越前生漉奉書」。
最高級の原料である、「こうぞ」のみを使用した、この和紙は、
室町時代以降、宮廷や武家の命を伝える、奉書として用いられた、由緒正しい紙。
現在この紙は、主に、浮世絵などの木版画に使われている。
国内外問わず、トップレベルの木版画家たちが、岩野の「奉書紙」を求める。
浮世絵彫師の朝香元晴さんから
「僕たち木版画職人は、特に浮世絵とかいろんな版画をする時に江戸時代からずっと、越前の岩野市兵衛さんに
和紙を漉いていただいた。今でも漉いていただいて、良いものを作るなら岩野市兵衛さんしかいない。
今もずっとお願いしてるっていうのが現状です。
越前和紙の里より ⇒http://www.echizenwashi.jp/tourguide/kogeishi.html